専業主婦の徒然ぐさ

中学時代からン十年書き溜めた日記と画像を見ながら書いています

不思議な少女(8)

 みなさん、こんばんは。(7)からの続きですさらに気持がわるくなります。苦手な方は絶対にスルーしてくださいね。

 

 その夜、妹は不思議な夢をみた。夢だから、必ずしも妹目線からだけの画像ではない。第三者が動画を観るような―対象となる場面が、前後左右・上下から、またそれがアップやワイドになり映し出されーちょうど二か月前に見た夢と同じ構図だった。そして、今度は前日の夕方、「お祓い」の時に起こった出来事だったー

 

 父住職が僧衣の袖から遺髪をはった人形(ひとがた)取り出した刹那―、彼らがいる通路の真上、マンションの屋上に防空頭巾を被った女子学生がこつぜんと現れた。彼女はどことなく寂しそうな表情をして、遠くをながめていた。―が、父住職が人形を線路に向かって飛ばした瞬間、彼女もそれを追い求めるように飛び立った。

 

 彼女は体を水平にして、顔を前にむけ人形のあとをおいかけていた。彼女が飛び出すと同時に、屋上にいた数十羽の小鳥たちが彼女と一緒に人形に向かって一斉に飛び上がった。それを見たKちゃんは「住職先生のパパ、鳥たちが・・・」というや、妹の手をぎゅっと握った。そのとき、Kちゃんの思いが、妹に流れ込んできた。

 

 「どうか鳥さんたち、お姉さんとお兄さんを守ってあげて」とー。そして妹は見た、人形はいつしか軍服を着た兵隊さんの姿になっていたーその服装は決して上等なものではなかったけど、その顔は気高く立派に見えたー後から来る彼女にむけられた瞳は慈愛にみちあふれていたが、その表情には憂いが浮かんでいた。

 

 彼は遅れてくる彼女を待つために空中で静止していた。彼の周りにも鳥たちが集まっていた。彼女はその彼に向かって手を前にのばし、彼はその手をつかむために手を後ろへ差し伸べた。彼女は風に煽れたように体をひらひらさせた。そのため彼女の背中の部分が下の妹たちに向けられた。「一体なに?彼女の背中についているものは!」

 

 それは、「あの教室の隅で見た黒い靄と同じものなの」―だが、それよりもさらに禍々さとおぞましさとを全体に漂わせていた。その靄は彼女の背中から急速に広がり彼女の体をつつみこもうとした、それどころかさらに前方にのびて彼にもおそいかかろうとしている。 それを見たKちゃんはあの時同様「フフフ」と笑ったようだ。

 

 妹に、あの教室でも感じたKちゃんの嬉々とした感情がーそしてそれに混じって「鳥さん、たすけて」という彼女の祈念も伝わってきた。小鳥たちは一斉に黒い靄に向かって前後左右から攻撃をはじめた。どうやら、彼女や彼も靄から逃れるために気力を振り絞って抵抗している。Kちゃんは「住職先生のパパ」と鋭く叫んだ。

 

 父住職は「はっ」として、直ぐに経文を唱え始めた。黒い靄の動きがとまった。いまだ!―Kちゃんは首をあげて黒い靄をにらんだ。その途端―黒い靄はKちゃんに吸い取られるかのようにー、Kちゃんの体にむかってながれこんでいった。最後・・・やはり靄の一部が吸収からのがれようと激しく抵抗したが、今度は無駄だった。

 

 靄が消えてなくなると空中では、いつのまにか手に手を取り合ったふたりが感謝の表情で妹たちをみつめていた。二人の口が同時に「ありがとう」と動くのを妹はみた。―が、二人はそういうと静かに目をつむり下へと落ちていった。黒い靄に抵抗するためにその気力のすべてを使い果たし、飛ぶ力をなくしたようだった。

 

 「だめよ。鳥さんたち、もう一度助けて―」Kちゃんの強い思念が閃光ように妹の頭を貫いていった。数十羽の小鳥たちはひらひらと回りながらおちていく二人の下に回り込むと、二人を背にのせるようにして力強く羽ばたいた。「ガンバレ―」妹は手をこぶしにして叫んだ。落ちたらまた、あの黒い靄たちの餌食(操り人形)になるー?

 

 鳥たちによってどうにか浮力を取り戻した二人は、やがて眼を開けて水平な姿勢になり、ゆっくりゆっくり空へ舞い上がっていった。二人はもう一度振り返って妹たちがいる高層階の通路をみた。妹は二人にむかって手を振った。ふたりはにっこりと笑って妹に応えたようにみえた。「やっと会えてよかったね」やがて・・・

 

 鳥たちに見守られながら、二人は夕焼けがひろがりはじめた空を上へ上へと、どこまでも、どこまでもとびつづけていった。・・・と、そこで妹は目を覚ました。これが、昨日本当に起こったことなの?妹は今見た夢を可能な限り反芻してみた。どうやら、飛び〇り騒ぎはなくなるようだな・・・妹は漠然とそう考えて二度寝することにした。

                            つづきます。