専業主婦の徒然ぐさ

中学時代からン十年書き溜めた日記と画像を見ながら書いています

ふしぎな女の子(3)

 みなさん、こんばんわ。

 ちょっと情景描写がくどいですが、我慢してください。

 

 さて、妹が教員補助のパートをしていた時の話、つづきです。小学3年生のKちゃんの忘れ物「小人のペンケース」をさがすため旧校舎に向かった妹たち、中央校舎二階にある連絡橋の鉄扉を開錠しました。扉を開けたすぐ手間と旧校舎の扉前、両側に赤いコーンが立てられて、黒と黄色のポールが渡してありました。

 

 ポール(通路)の中央には白い紙に大きな文字で「たちいりきんし」と貼付。二人は手をつないだまま無言で赤いコーンの横(通路の壁際)抜けて旧校舎の扉へと。連絡橋の側面はガラス張りで夏の傾いた日差しが強く差し込んでいました。通路にはうすく埃が積もっており、ところどころ忘れ物を取りに行っただろう先生の上履きの跡が。

 

 その上履き跡にもさらに薄く埃が積もっています。連絡橋の中はかなり暑く、壁が薄いせいか日暮の鳴き声が大きく聞こえてきました。二人は旧校舎側にも立てられていたコーンの横をぬけて、開かれたままになっている鉄扉を抜けて校舎の中へ。校舎全体が既に足組とホロに覆われているので、中は雨の日のように薄暗くなっています。

 

 連絡橋から見た正面に手洗い場があり、左側に階段と特別教室、右側に普通教室(クラス)がならんで続き、奥に階段と、つき当りがまた特別教室になっています。妹、引っ越しを含めて何回もここへは来ているので見慣れた風景。Kちゃんがいた2年生の教室は2階奥だったので、ふたりは手をつないだまま廊下を右に曲がります。

 

 廊下の左側が窓(外)で右側が教室群です。埃とカビくささで空気がよどんで、中央校舎よりさらに蒸し暑く半袖でむき出しの腕はじっとりと汗をかいていました。下にはやはり埃が積もっていて、数か月前まで子供たちでにぎやかだった校舎も「人が来なくなるとこんなにも早く荒廃してしまうのか」と、妹は驚いたそうです。

 

 教室の場所は知っているので二人は無言で進みます。ただ、kちゃんがはいているスリッパ(玄関で借りた)だけがペタペタと音をたてています。教室はどこも扉が完全に開かれて、廊下側の窓も開きっぱなしの状態。児童らが使っていてー引き続き使えそうな机と椅子は、教卓や教壇、教員棚と一緒に現在の校舎の教室へ移動させておりー

 

 逆に使えそうにない机と椅子等は、この(旧)校舎の出入り口に他の廃棄物と一緒に積み上げられています。なのでー梱包に使った紐くずとか段ボールの切れ端以外ー教室の中には何も残ってなくて、がらんと広々して、床にはやはり埃が積もっています。そんな景色を見るとはなしに二人はすたすた進み、Kちゃんがいた教室に来ました。

 

 Kちゃんは妹の手をスルリと離すと教室の中に入りました。その後に続いて入った妹は、机が三つ隅に残されているので少し驚いたそうです。教室は、今Kちゃんが入った入口(歩いてきた方)が前方で、机は後方の窓際(前方入口と対角線上ーこどもたちがランドセルをいれておく棚の前ー) 、棚側に口を向けて、固めて置かれていました。

 

 先に入ったKちゃんは「多分あの中にあると思う」と、そして「先生、手伝って」と、机の塊を目で指しました。妹、Kちゃんを追い抜いて机まで行くとー手前の机を動かすべくーふつうに机の両側を持って、少し持ち上げました。その瞬間、妹の頭の芯がぼーっとなって意識が遠くなり、視界に稲光が走り真っ白になりました。

 

 でも、それは一瞬のこと。すぐに状態は回復して、ふと見ると、Kちゃんが少し屈んで三つ目の机の中を覗き込んでいました。「やっぱり、ないよ先生」Kちゃんはそういうと少し残念そうな表情をしました。いつの間にか机が3つともバラバラになって置かれており、口をこちらに向けていました。「いつの間に、机を動かしたのだろうか?」

 

 「Kちゃん、私しばらくの間ぼーっとしてた?」との妹の問いに?「えっ、何?先生」と、Kちゃん首をかしげて不思議そうに妹を見ました。妹、少し慌てて「ごめん、ごめん。別になんでもないよ」と。そして二人は今来た道を戻り、旧校舎を出ました。

中央校舎側の鉄扉を施錠して、妹、Kちゃんをお母さんがいる校門まで送りました。

 

 Kちゃん「先生、ありがとう。二学期までバイバイ」と云うと、お母さんお姉ちゃんと連れ立って帰っていきました。Kちゃんらの後ろ姿を見送った後、帰り支度をするため職員室に戻ろうとして、妹、ふと校舎の時計を見上げました。「4時55分?」「少し、時間がかかり過ぎていない?」漠然とそんな考えが頭に浮かびました。

 

 妹の感覚では、旧校舎の教室へ行って戻ってくるまで「10分くらい」だと。何か釈然としない思いが胸に浮かびました。職員室へ戻ると何名か先生が残っていて、教頭先生から聞いていたのか「先生、お相手、ご苦労様」とねぎらってくれた。妹「そんなにがっかりしていなくて、助かりましたよ」と、見つからなかったことを話した。

 

 そしたら、Kちゃんが二年生の時に担任だった先生が「先生も付き合わされたんですか?」と。妹「?」。先生「いやね。私も夏休み前にKちゃんから『ペンケースをさがしたいから』と云われて、旧校舎まで一緒に行ったんですよ」「もちろん、なかったですけどね」「そのペンケース、よほどお気に入りだったんですねぇ」と。

                           つづきます。